歌の練習【ピッチの存在意義】

 

もう遠い遠い昔の話。


私が高校時代のバンド活動をきっかけに

所属することになったプロダクションには

今も現役で活動されてるフォークシンガーの

山崎ハコさんという大先輩がいらっしゃった。


ま、この事務所と関係者をめぐる過去の

いろいろな物語についてはいずれ何かの形で

詳らかにすることもあるかもしれないけれど、


一つだけ、

たしかだったと今でも思うのは

社長もマネジャー陣も音楽や芝居における

”本物を知ってる人たち”で、


でも今の私から見れば

良くも悪くも本物志向が強過ぎるくらいの

人たちが集まっているそんな環境だった。


10代、ハードめなロックを歌って育った

私を迎え入れた事務所はまず、


ジャンルはまったく違えど

同じ歌い手というフィールドの大先輩である

ハコさんに歌の基礎レッスンを受けるよう

お膳立てしてくれた。


後にも先にも直接誰かしら指導者に付いて

ボーカルレッスンを受けたことは

実はこの時以外、私は経験がない。


ボイトレというやつは教科書を買って、

教材に従って訓練したのみ。

今もその手法はとくに録音前などたいてい

準備運動のエクササイズのようにやっている。


ハコさんのレッスンは決まった日時に

自宅にうかがって、事務所から練習曲用に

指定されたハコさんの曲などのオケを

かけながら歌い、気になる点を指摘してもらう。


ハコさんもトレーナーではないので

具体的な改善策の指導があるわけではなく、


基本的には指摘点に留意して歌ってみる

という方向のレッスンだった。


それ自体はしごく当然のことだし、

私もアマチュア領域の中で歌ってきただけでは

自ら気づけない色んなことを指摘してもらって


プロにはこういう視点があるんだなとか

思ってる以上にシビアな部分があることを知り


それまで周囲に「上手い、上手い」と言われて

自信満々だった若干20歳の私のプライドは

見事に粉々に砕け散ることになった。


とりわけ今でもその衝撃で

忘れられない師匠の言葉がある。


「ずっと♯してるか、ずっと♭してるか、

どっちかならまだいいとして、

場所によって♯したり♭してるんじゃ

ただの音痴じゃん」


ガーン・・・苦笑


人に上手いと言われたことはあっても

音痴だなんて人生で過去一度も

言われたことなんてなかった。



音痴。私が、、、音痴?



衝撃的過ぎた。


その日から私はしばらく落ち込んで

立ち直れず、その心境たるや

若干鬱に入ってたと思うほど。


当時の私にとってはまさに

【青天の霹靂】的な指摘だったけれど、


今になって考えるとたぶん

今の私も目の前に当時の私がいたら

きっと同じ指摘をするだろう。


前置きが少し長くなったけど、

要するによほどの例外的才能を除いては

プロ基準のピッチ感というのが

実在するということ。


昨今は若者を中心に

いろんな媒体形式で自分の歌唱を

公開披露している人が増えているが、


ほぼ録って出しに近い状態の

ボーカルトラックも多いので、

その歌唱者の基礎レベルもほぼ

まんまであることが多い。


私自身がまたそうであったように

そもそものピッチ基準がズレている

ということもかなり多く、


本人はその事実にまったくもって

気づいていない。


ついでにいうと一般のリスナーの中にも

とても耳のいい人もいるが、

 

この基準については体感的に分かりづらい

ケースも多く、指摘されにくい。


たとえば私にあてはめて説明すると、

 

仮歌を録音する際にガイドメロと呼ばれる

シンセ音のメロディートラックを

片耳でチェックしながら(私の場合ね)

ボーカルトラックを録っていくわけだけど、


その際にガイドメロのピッチと

自分感覚のピッチが必要以上に

ズレてしまわないよう「ピタッ」と合う

 

メロ音と自分の声のピッチのフィット感

つねに神経を張り巡らせて集中して歌う。


私の場合、ハコさんのレッスンを

受けていた20歳のころというのは

このピッチ基準が全体的にかなり♭で

 

注意力がないために場所によって

♯してしまったりしていたのだと思う。


その♭癖というのは若い女性に

どういうわけか傾向として多い。

それは昔からわりとよく言われる。


理由の解明は今のところ

私自身できていないけれど、


実際に歌唱指導したり公私を通じて

多くの若い歌唱者の歌を聴いてきて

私も感じるところではある。

※もちろん個人差はある※


ハコさんにピッチのズレを指摘され、

ある時期ずっと自分の中ではものすごく

気持ちの悪い常に♯した状態で歌う、という


このやり方を続けることで

徐々にピッチ感の補整が定着していき、

OK範囲のところまで到達することができた。


今では自分のピッチが

そのボーダーの内外にあるかを

つねに把握・コントロールして歌う

ということが当たり前になっているが、


もともとロボットのように

正確にピッチをとれるタイプでもないため、

やれるレベルには限界はある。


ただそれ以上あったからといって

プロの歌い手としてまた表現する上で


より優位性のあることでもないので

そこに執着する必要もなければ


それだけで歌い手として評価されるほど

甘い世界ではないのが実際のところだ。


もしこういった技術面を

徹底的に追求したい!と思うならば

やってみるのもいいと思う。


でも世界には信じられないほど

上には上がいるもの。


ないよりはあるに越したことはない

そういうものではあるけれど、


ちょっとくらい基礎力が隣の子より

高かったとしても、「それで?」

という話になって終わる。そんなもの。


なんだけど「とはいえ」なのが

ピッチというやつなんだな。


そのレベルをクリアしてない状態では

やっぱり厳しいかなと思ってしまう。


もし「自分、ズレてますか?」

と質問したい人、いたら録音音源か

動画をどこかにアップして連絡くれれば

YES/NOで回答しますよ。笑   ←冗談です


YESと言われるのはショックだけど

己を知り、確実な成長につなげることには

なると思います。


あ、ちなみにこれは

プロになりたい人だけね。

歌うのが趣味の人にはこんなことは

私は言いませんので。笑

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