歌の練習【高音(ハイトーン)に騙されるな】

世間的にはよく声の高いシンガーだとか
高い声が出るシンガーが賞賛されがちだが、


11歳からずっと歌ってきた
曲がりなりに一応はプロとして
歌に携わっている立場から言わせてもらうと


実はハイノート(高音)よりも
ミドル(中音)からローノート(低音)を
安定的に歌えるシンガーのほうが


よっぽど歌い手としては
段違いに実力があると思っている。


もちろん全部長けてるのが
一番いいに決まってるけども。


ノーエフォート期の素人時代は
ハイノートがそもそも出ない(ことが多い)。


ゆえにまずは分かりやすくハイノートの
楽曲を練習するケースが多いと思う。

とくにロックジャンルなどは。


ハイトーンが出る=凄い、巧い



みたいなイメージは一般的に強いし
実際に凄くて巧い人が多いのも事実だ。


でもその先をさらに突き詰めていくと
実はハイトーン自慢な類いの歌い手も

2タイプに分かれることにいずれ気づく。
ちゃんと精進すれば。


高い声もちゃんと出るハイトーンボーカル



高い声しか出ないハイトーンボーカル

大きく分けるとこの2つ。
細かくいえばもっと分かれるけど。


ハイトーンしか出ないタイプは
低音と中音の鍛錬が不足していたり


もともと声帯の体質的に弱かったりで
ミドルからローが不安定。


この不安定というのは
長い目でみるとけっこう歌い手として
重大なハンディキャップになり得る。


声帯は筋肉なので
アスリートの世界にも
先天的にフィジカルに強い弱いが
あるのと同じで


声帯にもこのある種の
確定的な才能が存在する。


レンジを広げるトレーニングで
声帯を鍛えていくと

ある一定のところまでは
誰でもレンジは広がるのだけど


どこまで広がるのか個人差があるのは
おそらくこの筋肉の素質の差が大きい。


もし実際に取り組んでみて
上下どちらかに著しく成長するなら
声帯そのものの筋の才能はわりとあると
思ってもいいだろう。


ただし、高音と低音とでは
どうやっても高音が伸ばしやすく

取り組む側としても分かりやすいために
高音ばかりに取り組んでしまいがち。


一方、中低音はというと
高音のような分かりやすさはなく

地味な上に成果につながるのに
高音より時間がかかる。


気づくと高音しか出ない
中低音がグラグラに不安定な
ハイトーン自慢ボーカリストってのが
生まれがちなのだと経験的に思っている。


かく言う私もまさにそれで
20歳前で弱小の音楽プロに所属して
アーティスト活動していた時代は
とにかく低音の弱さに悩まされたし


その後の裏方音楽家業でも
中低音の不安定さに我ながら
ほとほと嫌気がさす日々を
長らく過ごしてきた。


いつごろから唯一救いだと
思えるようになったのは


高音を褒められることもあったが
それ以上に中低音の声質を
好きだと言ってくれるリスナーが
実は意外と多かったことだろうか。


もっともここ5年ほどは暫定的な
機能性発声障害でまったくもって
中低音も高音もへったくれもないが。苦笑


ついでに言うと世間のイメージで勝手に
ハイトーンボーカルと思われている
シンガーというのにも実は幾通りかある。


だいたいハイトーンかどうかの
印象を決めるのには


・もともとの声質の高低と
・レンジの軸の高低



この2つ要素がある。


多くは
 
声質からして高く
レンジの軸も平均より高い

これが本当の意味での
 
ハイトーンボーカルだと
個人的には思っているけれど

ちまたの歌をよくよく聴いていると
実は本人さんの声は低めで
レンジの軸も低いために

実際よりもハイトーンで歌っている
かのような錯覚を起こさせるタイプの
歌手というのがいるのだ。

最近だとLiSAさんあたりが
そのタイプだと思う。

男性シンガーには
そういうタイプが意外と多い。

低そうに聴こえて実は
さほど低くない、とか

低そうに聴こえて実は高い

なんてパターンもある。
ちなみに私自身は最後のやつだ。

こんなふうにしてハイトーンにも
いろんなパターンとタイプがあるし

ハイトーンが強いからといって
けっして総合的に強いわけではない

ということも

勉強中の若い歌唱者はもちろん
音楽好きなリスナーにも頭の片隅で
知っておいてもらいたいことの一つ。

というか、むしろ

高い声よりもローとミドルを
安定的に使いこなせるよう鍛錬するのを
個人的にはおおいにオススメする。

もともと出来てしまう人もいるが
それは才能なので出来ない者は
とにかく練習に練習を重ねるよりない。

あとは客観的に自分の歌を見られる
目を養うことだろうか。

それはリズム感とかグルーヴ感
なんかにもつながる重要な話になるが
(この辺はさらに練習で敵う範囲が限られてくる)

とにかく自分の中の”客観性”を
育てることが不可欠。

これが腹に落ちない者は
5年は当然として10年やっても

20年やってもちっともプロの歌には
達しないと思う。

毎度書いていることだがテクニックは
プロとしての合格ラインに達していれば基本
それ以上はないよりはあったほうがよい程度の話。

どんな立場で歌を仕事にするかにもよるが

どちらかといえば表側の歌い手なら
なおさらテクニックなんてのは
基本最低限で十分だと思う。

ただしこの基本最低限に達してない場合
よほどな声の才能か表現の才能が要る。

それがない人が大半なので
どうしても最低限は鍛錬でテクニックを
身につける必要がある、という構図。

ぶっちゃけると
歌唱派タイプに見えないだけで
ムチャクソに歌が巧い人というのが
案外プロのアーティストには居る。

私が以前にピックアップした
エレカシの宮本さんや
ユニコーンの奥田さんなどまさに
その典型タイプだろう。


歌の鍛錬というとまずは発声、次にピッチ
みたいに捉えがちな傾向がある気がするけど

もちろんそれも大事だが
最終的に致命傷になるのは、実は

リズム感だと思っている。

簡単にいうと生まれつきの運動神経
みたいなものとでもいえばわかりやすいだろうか。

運動音痴とはよく言ったものだがリズム音痴は
完全に歌い手にはリカバリーの難しい体質要素だと思う。

もちろん意識的にトレーニングすれば
ある程度の改善は見込めるかもしれないが
体質なので時間もかかるし限界がある。

私が思うにプロを目指して
10年やってみてここが最低ラインまで
改善できないようであれば厳しいようだが

歌の道は見切ったほうがいいのではないか
くらいに思う。

もちろんそれはプロとしてやっていく
という選択肢に対してだけの話であって

趣味だとかあくまで本業は別にあったり
副業として趣味の延長的な感じで楽しみとして
取り組む人であればそんな必要はまったくない。

ついでに言っておくと

ハイトーン勝負の道を選んだシンガーは
一生このハイトーンの呪縛に追われる可能性が高い
ということも知っておくといいかもしれない。

それを想定してもやはりミドル&ローを
鍛錬しておくことはとても意義のあることなのだ。

ハイトーンに騙されてはいけない。


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